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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)6250号 判決 1976年10月25日

原告

東京電力株式会社

右代表者代表取締役

水野久男

右訴訟代理人弁護士

柏崎正一

外三名

被告

木村松夫

主文

一  被告は原告に対し金一五三七円及びこれに対する昭和五一年四月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、原告

主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二  当事者の主張

一、原告の請求の原因

1  原告(株式会社)は、かねてから被告に対し、同人との間の電気供給契約に基づきその肩書住所において電気を供給しているものである。

2  右のような電気の供給関係における料金は、通商産業大臣の許可を受けた供給規程の定めるところによるべきものであり(電気事業法一九条一項、二一条)、別紙第一表記載の供給期間においける被告に対する電気料金については、原告が昭和四九年五月二一日通商産業大臣から変更の認可(49資庁第四二八五号)を受け、同年六月一日から実施した電気供給規程(右のとおり変更認可を受けた同規程を以下「本件供給規程」という。)によつて定められている。

3  原告が別紙第一表記載の各月分として同表記載の各期間に被告に対し供給した電気について、本件供給規程により料金(地方税法四八六条以下所定の電気税を含む。)を算定すると、同表電気料金額欄記載のとおりであり、その合計は三万九一〇七円である。

4  原告は、被告から右各月分の電気料金に対する支払と称して別紙第二表記載のとおりの送金を受けた。

5  しかしながら、被告が右のように本来の料金に満たない額を送金してきたのは、被告にたまたま全額の支払能力がなかつたとか、錯誤によつて支払金額を間違えたというような事情によるのではなく、独自の見解に立つた意識的計画的行為であるから、不足額が僅少であるにせよ、被告の右送金をもつて債務の本旨に従つた弁済の提供ということはできない。そこで、原告は、被告が送金してきた右金員の受領を拒絶し、これを義務なく預り保管中であるので、右金員合計三万七五七〇円の返還債務と、前記3の原告の被告に対する電気料金債権のうち古い月分から順次右同額に充つるまでを合計した分とを本訴において相殺することとし、これにより被告の前記電気料金未払分は別紙第一表記載の昭和五一年一月分のうち一五三七円となつた。

6  よつて、原告は被告に対し右一五三七円及びこれに対する本件支払命令送達の翌日である昭和五一年四月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告の答弁

1  原告の本訴請求は、裁判によるべきものではなく、また本件紛争の性格上訴訟手続になじまないものである。

被告は、昭和四九年一〇月一九日他の電気消費者とともに原告に対し、原告が昭和四九年六月から実施した電気料金の値上げの措置に関連して原告の政治献金問題、電力事業の在り方等についての質問を発し、併せて過去一三年間における原告の政治献金相当額の電気料金の値下げ、電気料金体系の改訂、原子力発電、火力発電の中止等を要求し、これらについて説明会を開くよう要請した。これに対し原告は、参加者に理解されるまで誠意をもつて説明会を開催し、納得のゆくまで話し合うことを約束し、昭和四九年一〇月から昭和五一年二月まで七回にわたる説明会を催し、被告らとの話合いを続けてきた。ところが、原告は同年三月被告らとの話合いを一方的に打ち切つて本件支払命令の申立てに及んだが、右のような経緯と原告の営む公共事業の性格とに照らせば、本訴請求はあくまでも話合いにより解決されるべきであつて裁判に訴えるべきものではない。まして、被告は原告の電気料金の値上げ自体に不服を唱えているのであるから、本件は通常の債権の取立てのための訴訟にはなじまない。

2  請求の原因1は認める。

3  同2は争う。

被告は、本件供給規程により電気料金等の値上げされた経過、その背景の理由及び内容等について納得することができず、原告の営む事業の公共性に照らして右による値上げを認めることはできない。本件供給規程による料金の定めは不当であつて原被告間の供給契約の内容として容認することができない。

4  請求の原因3、4は認める。

5  同5は争う。

被告は、原告の主張に係る別紙第一表の各月分の電気料金の支払として、原告に対し第二表記載のとおり送金したものであり、その弁済は有効である。

第三  証拠<略>

理由

一被告は、本訴請求は話合いにより解決されるべきであつて、裁判によるべきものではない旨主張するので、まずこの点について判断するに、本訴提起に至るまでの間に被告の主張するような経緯が存したとしても、また、被告主張のとおり原告の営む事業の公共性を考慮してみても、いずれにせよ本件について、訴訟による解決を仰制すべき理由を見出すことはできないし、まして起訴を禁止すべきいわれはない。被告は原告が被告の申入れを容れて話合いの約束をしたと主張するが、その約束なるものも、原告が特段本件につき訴権を放棄するとか、訴の利益又は必要性を阻却するという趣旨を含んでいたものでないことは、弁論の全趣旨に照らし明らかである。更に、被告は、本件は訴訟になじまないと主張するが、本件訴は、原告が給付請求権を有するのに現に給付を受けていないと主張するのであるから、それだけで原告において本案判決を求める利益・必要の存することには疑いがない。

被告の右主張は、いずれも理由がない。

二そこで、請求の原因について検討するに、原告(株式会社)がかねてから被告に対し電気供給契約に基づいて電気を供給している旨の請求の原因1は当事者間に争いがない。

ところで、一般電気事業者は、通商産業大臣の認可を受けた供給規程に電気料金についての定めを置き、これに従つて電気を供給すべきものであるが(電気事業法一九条一項、二一条)、この供給規程の定めが電気需要者に対し直ちに拘束力を及ぼすものか否かについて検討する。

まず、供給規程に関する電気事業法の諸規定を通覧するに、同法一九条一項は、一般電気事業者は電気の料金ばかりでなくその他の供給条件についても供給規程を定めて通商産業大臣の認可を受けるべきものとし(供給条件の変更について同じ)、他方、同法二三条は、通商産業大臣はいつたん認可を与えた供給規程についても、その後の事情の変動に応じ、みずからの公益判断のもとに一方的に変更の措置を採り得ることを定めている。そして、このような手続を経て成立し、又は変更した供給規程について、同法二〇条は一般電気事業者に対し公表義務を課し、更に同法二一条はこれ以外の供給条件によつて需要者に電気を供給することを禁止し、これらに違反した者に対してはいずれの場合においても刑罰をもつて臨むこととしている(前者につき一二〇条二号、後者につき一一八条三号、なお一二一条)。これらの規定と、更にひるがえつて同法一八条一項が一般電気事業者に対し供給区域内における需要者との間の供給契約につき応諾義務を課している(この点についても罰則として同法一一七条二号、一二一条)ところとを併せて考えると、電気事業法は、契約自由の原則の支配を大幅に排除して一般電気事業者と一般需要者との間の供給契約について当事者が個別的に契約条件を協定することを禁じ、専ら供給規程の定めによるべきことを強制していることが明らかである。このように見てくると、いわゆる供給規程は、一般電気事業者とその供給区域内の現在及び将来の不特定多数の需要者との間のすべての電気供給契約について適用されを普通契約条款としての性質を有することは明らかであるが(後掲甲第一号証によれば、原告の供給規程の供給契約の定型、内容、条件はもとよりこれに関連する細目的規律をもうら的に規定している。)、通常の約款はこれに従う旨の契約の相手方の明示又は黙示の同意により初めて拘束力を生じることになるのと異なり、供給規程は法律自体によつて契約当事者がこれと異なる内容の合意を結び得ない一般的拘束力を有することが宣言されているものというべきである。

本件について、弁論の全趣旨及びこれにより成立の認められる甲第一号証によれば、原告は、電気事業法にいう一般電気事業者(同法二条二項)に該当する者であり、本件において問題となつている別紙第一表記載の供給期間(昭和四九年七月一一日から昭和五一年一月八日まで)における電気料金については、本件供給規程にその定めを置いていることが明らかである。したがつて、原告と被告との間の右供給期間における電気料金については、本件供給規程により律せられるべきである。

被告は、右供給規程による料金の定めは不当であつて原被告間の電気供給契約の内容として容認することができないと主張するが、供給規程が既に詳述したような性質を有するものである以上、当該供給規程の定めを無効とすべき特段の事由がある場合には格別、そうでない限り単に納得しがたいとか不当であるという理由によつて電気需要者においてその適用を拒み得ないものであることもまた明らかである。被告の主張は、本件供給規程の定めについては納得することができず不当であるというにつきており、他に特段本件供給規程の適用を排除すべき事由について触れていないので、右の説示に照らして採用することができない。

三ところで、原告が別紙第一表記載の各月分として被告に供給した電気の料金の算定に関する請求の原因3は、当事者間に争いがないので、被告は原告に対し同表記載のとおりの各月分の料金債務を負うに至つたものでというべきである。

一方、被告が原告に対し、右各月分の料金の支払に充当するものとして別紙第二表記載のとおり送金したことは、これまた当事者間に争いがない。

原告は、被告の同表記載の送金は被告の前記料金債務の本旨に従つた弁済の提供とはいえないと主張するので、この点について検討するに、被告の右各送金債務に比し、別紙第二表の不足額欄記載のとおり月によつてはわずか一円であるにせよいずれの月においても僅少の不足額の存することが計算上明らかである。ところで、金銭債務の弁済はその金額について遂げるべきであり、一部の提供は債務の本旨に従つた弁済の提供とならないのが原則である。もつとも、提供額に僅少の不足があるにすぎない場合において、債権者債務者双方の事情を総合的に見て提供を無効とすることが信義則に違反すると認められる場合には、そのような提供についても一部弁済の提供としての効力を肯定すべきであるが、本件においては、前記のような僅少の不足のある被告の送金を無効とすることが信義則に反するとすべき特段の事情を認めることはできない。むしろ、被告の前記のような本来の債務に比して僅少の不足の存する送金が各月分にわたつて継続的に行われている事態は、原告の主張するとおり意識的計画的行為と評価せざるを得ないばかりでなく、原告の営む大量の、反覆・継続する事業(原告の営む事業の性格がこのようなものであることは、弁論の全趣旨により認める。)の能率的運営に著しい支障の生じることを容易に予測することができる。したがつて、被告の前記のような各月分の送金は、不足額が一円である場合をも含めていずれも債務の本旨にそう提供といい得ず、弁済としての効力を認めることのできないものである。

四以上によれば、被告の前記送金額合計三万七五七〇円を原告において被告に返還すべきものとしたうえ、これを請求の原因5掲記のとおり被告の前記電気料金債務と相殺し、別紙第一表記載の昭和五一年一月分のうち一五七三円を原告の未受領分として、右金額及びこれに対する本件支払命令送達の翌日であること記録上明らかな昭和五一年四月一七日以降右支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は、すべて正当として認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条 仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

第1表  電気料金表

月分

電気の供給期間

電気料金額

支払期限

昭和年月

49.8

昭和年月日 昭和年月日

49.7.11~49.8.11

2,252円

昭和年月日

49.10.2

9

49.8.12~49.9.8

1,944円

49.10.30

10

49.9.9~49.10.8

1,910円

49.11.28

11

49.10.9~49.11.7

1,616円

49.12.28

12

49.11.8~49.12.6

1,704円

50.1.27

50.1

49.12.7~50.1.10

1,540円

50.3.3

2

50.1.11~50.2.9

1,525円

50.4.2

3

50.2.10~50.3.11

1,452円

50.5.1

4

50.3.12~50.4.10

1,269円

50.5.31

5

50.4.11~50.5.13

1,596円

50.7.3

6

50.5.14~50.6.11

1,780円

50.8.1

7

50.6.12~50.7.10

2,303円

50.8.30

8

50.7.11~50.8.11

3,069円

50.10.1

9

50.8.12~50.9.9

3,604円

50.10.30

10

50.9.10~50.10.12

1,856円

50.12.4

11

50.10.13~50.11.9

2.319円

50.12.31

12

50.11.10~50.12.7

3,037円

51.1.28

51.1

50.12.8~51.1.8

4,331円

51.2.28

39,107円

第2表  被告の送金表

月分

電気の供給期間

電気料金額

支払期限

昭和年月

49.8

昭和年月日 昭和年月日

49.7.11~49.8.11

2,252円

昭和年月日

49.10.2

9

49.8.12~49.9.8

1,944円

49.10.30

10

49.9.9~49.10.8

1,910円

49.11.28

11

49.10.9~49.11.7

1,616円

49.12.28

12

49.11.8~49.12.6

1,704円

50.1.27

50.1

49.12.7~50.1.10

1,540円

50.3.3

2

50.1.11~50.2.9

1,525円

50.4.2

3

50.2.10~50.3.11

1,452円

50.5.1

4

50.3.12~50.4.10

1,269円

50.5.31

5

50.4.11~50.5.13

1,596円

50.7.3

6

50.5.14~50.6.11

1,780円

50.8.1

7

50.6.12~50.7.10

2,303円

50.8.30

8

50.7.11~50.8.11

3,069円

50.10.1

9

50.8.12~50.9.9

3,604円

50.10.30

10

50.9.10~50.10.12

1,856円

50.12.4

11

50.10.13~50.11.9

2.319円

50.12.31

12

50.11.10~50.12.7

3,037円

51.1.28

51.1

50.12.8~51.1.8

4,331円

51.2.28

39,107円

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